日本人として国際的に働くには

Microsoft Research Asia の Twitter アカウント @msraurjp で知ったのだが、マイクロソフトのインターンシップの内容がかなりいい。対象は修士もしくは博士の学生なのだが、待遇が月25万円程度の給与、交通費全額支給、住宅手当が出るのはさておき、募集プロジェクトがなかなかチャレンジングである。

  • クラウド日本語入力システムの開発
    • Web Service としての日本語入力システムを開発し、その過程で最新語辞書の統合と新規ランゲージ モデルの実装を行います。
  • Wikipedia から単語間の関連性を解析するシステムの開発
    • Wikipedia のページ間の関係から、単語 A の概念と単語 B の概念の関連性を解析するツールを実装します。このツールにより、あるドメインに関連する単語を抽出し、その単語をキーワードを使って、Web から特定のドメインに関連した文書を収集できるようになることを期待します。
  • テストコーパス生成システムの開発
    • 品質の高いテスト コーパスを生成するための自動化されたシステム、もしくはマニュアル作業を簡略化するためのシステム開発に参加します。
  • 日本語および他言語における人称代名詞の出現頻度の比較
    • 英日文における人称代名詞の出現頻度の違いを調査し、日本語独自の特質 (翻訳の難しさ、直訳の危険度など) を理解します。さらに他言語 (中国語、韓国語、ドイツ語) での出現頻度と比較することにより、統計的な違いの有無についても調査、分析します。
  • 検索技術やサービスの開発
    • 特定のロケーションにフォーカスした検索は Web 検索ビジネスの重要なセグメントです。日本のユーザーと市場の要件に応じるため、プラットフォームの進化と同時に大量の日本固有のデータ管理をしています。プロジェクトでは Bing の検索と地図に関する日本固有のデータ移行とシステム管理の設計と実装を行います。

といった感じで、自然言語処理に関するテーマがいろいろ出ていておもしろそうである。
選考方法もなかなかひねってあって、提出物が

  1. 日本語: 履歴書 (顔写真入り) A4 サイズ 1 枚以内、書式自由
  2. 英語: 履歴書 A4 1 枚
  3. 英語: 大学、大学院での履修一覧 (可能な限り成績も記入) A4 2 枚以内
  4. 英語: 課題 プログラミング経験とプロジェクト内容 A4 3 枚以内
    • プログラミング経験 (時系列、短い説明文、使用言語、プラットフォーム) をまとめる
    • 上記経験の中から 1 つ選んで、以下の内容をまとめる
      • プロジェクトの内容、タイトル
      • プロジェクトの目的、ゴール、どのような問題がそのプロジェクトによって解決されたか
      • そのプロジェクト中で発明的な部分、自分なりに工夫を凝らした部分はどこか
      • プロジェクトに関係するダイアグラムを 1 つまたは 2 つ

となっていて、本気でやりたい人でないとここまでの書類は用意できないだろうし、これだけの枚数を埋められる人はかなりの力のある人だと思うし(未踏ユースくらい通った経験がないと書けないであろう)、英語で書くことを要求するのもなかなかハードルが高い。逆に言うと、これだけの書類を埋めて提出できる人は、ほとんど OK なのではないか、と思うくらいである。(もちろん、ただ埋めただけではなく、それなりに考えて埋める、という意味で)

逆に楽天が社内の公用語を英語にしたなんて記事を読むと、そもそも英語を喋る人がいないところで英語を使ってどうするんだろう、と思ったりもする。マイクロソフトのような企業は海外の人たちとコンタクトを取ってやる必要性があって英語を使っているのだから、必要性がないなら使わなくていいと思うのだが……。日本語より英語のほうができる人をどんどん中に入れるのと同時にやらないと意味がないのでは? (それにしたって、英語ができるからその人を入れるのではなく、その仕事をしようと思ったら世界でその人でないといけない、というような状況でないと)

一方 Amazon の検索部分の子会社の A9 は ソフトウェア・エンジニア – 検索精度 (要日本語能力)という募集をしている。うむむ、これはおもしろそうな仕事(だが自分は行けない)。しかしこの募集が変なのは、シリコンバレー(Palo Alto)が勤務地にも関わらず、募集が全部日本語でなされていることで、他の募集が全て(リンク先見ていただけると分かるのだが)英語なところ。これはつまり、日本語がネイティブの人(英語も必要ながら、それはさておき)で、自然言語処理系の大学院を出たような人を強烈にほしい、というアピールなのではないかと思う。いやぁ、こういうところに入ると楽しそうだな〜。楽天も社内の公用語を英語にする前に、中途採用の応募書類を英語で数ページ書かせるところから始めないとだめじゃなかろうか。

そういえば、@niwさんも今年からTwitter Inc.で働き始めた(日本人初エンジニア?)そうだが、こういう小さい環境で働くのって絶対おもしろいと思う。海外で働きたいのだけど、というお話を時々聞くのだが、理工系で博士後期課程まで行くのが一番楽なんじゃないかなぁ。アメリカの PhD course は授業料無料、お給料も出るので、そこに飛び込むか、もしくは日本で博士課程に進学して海外にインターンシップに行ってつながりを作る、というのが手っ取り早い。

日本から外に出て行く人はあまり日本人であることを売りにしたがらないのだが、海外の人が日本人のエンジニアなり学生なりを見たとき、「この人は採用したい」と思うのは日本語ができることだったり、日本文化が分かることだったり、それを売りにしないでどうする、という感じである。(言語処理なんでやっているから特にそう思うのかもしれないが) 「国際的に働く」というのは、全部英語で仕事をしろ、という意味ではなく、自分の文化を大事にする(相手の文化も尊重する)ことがまず必要なのであって、日本語をないがしろにして英語に走っても意味がないのである。

というわけで、海外でも国内でもいいが、選抜のあるインターンシップに出したい場合、自分の「売り」がなんなのか、じっくり考えてみたほうがいいと思う。

一方日本の Amazon でもエンジニアを募集し始めたようだが、これ大丈夫なんだろうか。中途採用に応募して分かったアマゾンの強さの秘密。という記事を読むと、すごい環境なんだなと思う。でもここまで徹底しているところが逆に Amazon の強みかもしれない。これ読んで日本の Amazon には行く気が全くしなくなってしまったが……(と、オチに使って申し訳ない)