推薦状を書いてもらうのは結婚式でスピーチを頼むのと同じ

今日が奈良先端大学内の日本学生支援機構特に優れた業績による返還免除の申請〆切だったようで、ばたばたしていた。

日本学生支援機構というのは昔は日本育英会と呼ばれていた組織で、日本育英会と呼ばれていた時代は、第一種の奨学金の貸与を受けていた人は決められた年限までに常勤の教員や研究員になって一定年数勤務すれば返還が免除される、という制度だったのだが、数年前に大きく制度が変わり、免除職を廃止し、学部生に対する奨学金の返還免除も廃止し、大学院生のみの返還免除を新設した、という次第。そして、返還免除はその人が就いた職業によって決まるというシステムを変更し、在学中の研究業績によって卒業した年のうちに免除かそうでないかが判定される、というシステムになったのである。

この変更自体は自分は歓迎すべき変更のように思う。研究職を目指す人は、将来に渡って(学部生から借りれば1000万円近い)借金の返済額が確定しないという不安定な状態を続けなければならなかったが、新しいシステムでは返さなければならないか返す必要がないかはすぐに分かるし、研究職・教育職に就くかどうかと免除になるかどうかは切り離されて判定されるので、職業選択の幅が広がった(特に博士の学生)。

プラスかマイナスかよく分からない点としては、日本学生支援機構からは各大学に「奨学金貸与者のうち何%まで免除にしてよい」という数字が示されるだけで、どういう学生を免除対象者にするかは大学(もっと言うと研究科)に一任されるので、透明な選抜を行うところと、よく分からない選抜を行うところとで、不公平感があるように思う。奈良先端大は「何ページ以上の国際会議論文は何点、論文誌は何点、特許出願は何点」と細かく告知されているので、とりあえず自分が何点くらいかは自分で計算できるし、どんな項目が研究として評価に値するか学生に向けたメッセージとも捉えることができ、どういう判定結果になろうが、納得性は高いように思う。言い換えると、申請しても免除にならなかった人は、自分は研究的には評価されていなかった、ということが分かる、恐ろしいシステムでもあるが。(補足しておくと、加点項目に「博士の入学試験の成績」があるので、そのまま博士に進学する人は入試の成績が加点されるため、就職する人や博士から他大学に行く人に比べてかなり有利である。)

そこで申請したい人は必要書類を揃えなければならないわけだが、これには指導教員の推薦書が必要なようで、推薦状をどうするか問題があったようだ。

自分自身これまで推薦状をお願いしたときは、十分前からお願いして厳封したものをもらっているような気がするのだが、もう一つの流派として、学生(被推薦者)にまず下書きをさせ、それを元に自分で書く(場合によっては単にサインをするだけ)教員もいる。Twitter でもらったコメントから見ると(そしてこれまで聞いた人の話を総合すると)、むしろそちらのほうがメジャーらしい。確かに推薦者が自分のことをよく知っているとはかぎらないし、推薦状を提出する先がどういうものを要求してそうかもわざわざ合わせて書いてもらうのも手間なので、事前に下書きして渡す、というのも合理的なように思う。自分で自分の推薦状を書くことで自分の長所についても考えるので、学生にとってはいい訓練にもなるらしい。松本先生は推薦状お願いしたら1時間以内に作成してくれるので毎度毎度びっくりするのだが、昨年別の方に推薦状をお願いしたときも、もしかして下書きをお渡しするべきだったかと考えてみる。

自分としては推薦状を書くというのは名誉ある行為だと思うので、頼まれたら喜んで書くと思うのだが、やはり書くのは面倒くさいと思う人もいるのだろうなぁ。推薦状を頼むのって、結婚式で恩師や友人にスピーチを頼むのと同じだと思うのだが(少なくとも自分に取ってはそれくらいの重みがある)、そういうときも「こういうスピーチをしてください」と下書きを渡すのだろうか? (控えめに言って、「ご参考までに、こういう経歴です」と資料を渡すか?) やっぱり自分は渡さないように思う。もちろん、書くネタがほしいので、下書きをください、と言われたらお渡しするだろうが、たぶんそういうものがなくても書けるであろう人にお願いするのが筋だと思うし、それで断られたら仕方ないなと思う。(内容を知らないほうが、中身を知ったとき感動する、ということもある)

忙しい中お願いするのでできるだけ手を煩わせないようにするのが礼儀である、と言われると確かにその通りかと思うのだが、自分が頼まれる立場だと、推薦状の内容まで指示はされたくないような気もする。友人代表スピーチを頼まれたとき「こういう内容は書かないでくれ」「自分のことを誉め讃えてほしい」という注文はもらったことがあるが(笑)、言われたときは「えっ、そんなことまで言われるの」とびっくりしたものである(今となっては言ってくれてよかったなぁ、と思うのだが)。また、逆の立場で、友人代表スピーチを頼んだ人から、事前に「こういう内容でいいか」と確認しようとしたことがあったと聞いたのだが、それに関しては自分は確認してくれなくてよかった、と思っている。たぶん聞いていたら初めて聞く楽しさがほとんどなくなってしまっていたであろう。矛盾するようだが、自分でもどちらがいいのかよく分からない。(でもやっぱり友人に頼むとき「こんなことは書かないでほしい」「こういうことを書いてほしい」とは注文しないような気がする)

ともあれ、さすがに研究に関する推薦状だと研究業績一覧(履歴書というか CV)を添えて送るくらいはしたほうがいいのだろうな、と今回の一件で思ったのであった。あと何回推薦状をお願いする機会があるのかは分からないが、肝に銘じておこう。