日本人と100m

昼間にテレビをつけていたら今年のオリンピック短距離リレーで銅メダルを獲得した朝原宣治選手の特集、スポーツ大陸の再放送がやっていた。実は本放送も見ていたのだが、後半の部分しか見ていなかったので、全編見られてよかった。

陸上競技は5歳下の弟が高校時代陸上部(100m)だったので付き合っていろいろ見ていたのだが、そのころからずっと現役だった朝原選手が有終の美を飾ったというので感慨深いものがある。シドニーでもアテネでも「そろそろ引退か」と自分なんかははたから思いつつ見ていたのだが、引退するときなんて本人が決めるものであって、他人が口を出すのはおこがましい。

で、前回見ていなかった前半部分がなんだったかというと、大学に入ってからつきあい始めた彼女(現在の奥さん)が先にオリンピックの舞台に立ち、メダルまで獲得し、奮起した(が全くメダルに届かず七転八倒する)、という内容で、朝原選手はインターハイでも(種目は違うけれど)優勝するなど(上記の Wikipedia の記事で初めて知ったが、中学時代はハンドボールで全国大会に行ったらしい)、経歴的には陸上界のサラブレッドとも呼ばれるほどだったのに、陸上という競技は日本人には厳しすぎて苦労したんだな、と思った。ちなみに100mの歴代世界記録は上位は全て黒人選手で、並みいる黒人選手10人ほどの次に来るのは伊東浩司選手の10.00なので、体格の割には日本人選手は限界近くまでがんばっていると思う。

100mというと今年のオリンピックではジャマイカのボルト選手が世界新で優勝して話題をさらったが、オリンピックより少し前に出版された

には、多角的に検討した結果、時間あたりの歩数はほぼ人間の限界に来ているので、あとは1歩あたりの歩幅を伸ばすしかなく、それが有利なのは長身の選手なので、近い将来にボルト選手(かもしくはそれに似た長身の選手)が世界新を出すであろうという「予測」が書かれていて、まさにそれが的中した、という意味ですごい本。自分などは「ボルトが100mで世界新」と聞いた瞬間この本が思い浮かんだ。

話を朝原選手に戻すと、大学卒業後ターゲットを世界に向けて世界各地でトレーニングを受け、世界ランキングの試合を転戦する、という武者修行を実に7年間も続けた、ということであった。「世界と戦うためには世界に出なければならない」と思っていたそうで、その精神は若い世代の為末大選手末續慎吾選手に受け継がれている。

そんな話を聞いて、自分も同じだなぁ、なんて感じる。特に日本が弱い分野、もしくは今はまだ競争力ありそうに見えるけど、これから相対的に弱くなりそうな分野(つまり今から先手を打っておけばまだリードを広げておけそうな分野)では、日本人(というくくり方をしている時点で古くさいのかもしれないけど……)は特に考え方ですでに遅れてしまっているのではないかと思うのだ。

「世界レベルなんて無理だしそもそも目指していないし」って言われるかもしれないが、たとえばたまたま入った高校でたまたま入った部が全国大会常連校だったら当然のように地区大会なんかは大差で勝つだろうし、全国大会に出て他の地域の強豪校と戦うことで「上には上がいる」ってことを知って自分の力を磨こうとするだろうし、結局はそこで自分自身との戦い(葛藤)をすることによって、人生自分なりの道を見つけていくんだと思うので、自分としてはそういう「(受動的にでも)いいものに触れる」という体験をみんなにしてもらいたいなぁ、という気持ちでいる。

先日全然面識もない人なのだが、自分の日記を読んでいるという人がいたそうで、自然言語処理で研究していることとか海外にインターンシップで行ったりとかいうのを読んで、同じ大学院生として刺激になっています、と言ってくれていた、と聞いたのだが、そういう小さなところでもなにか感じるところがあってやる気になってくれる人がいる、というのはとても嬉しい。