まず形から

実家から将棋の駒を持って帰ってきて、なぜか夢の中で駒を磨いていたので起きてから実際に磨いてみる。

将棋の盤の材質はどれが特によいというのはあまりないのだが、駒はツゲ製のものが最高級である。木の櫛に使われることも多いので知っている人もいるかもしれないが、ツゲの木で作った駒は固い材質でできており、使い込むうちに人の脂によって使い込むほどに見事な飴色になる。櫛の場合は髪に付いている脂が染みこんでいくのだが、駒の場合は指に付いている脂が染みこんでいくわけである。

このとおり駒は放っておいてもどんどん使っていると脂が乗っていくわけだが、買ってすぐは全然脂に触れていないので、非常に汚れがつきやすい。これを自分の手で油をつけて磨いて油によるコーティングをしておけば、きれいな色にもなるし汚れにくくもなる、というわけで、ツゲの駒を持っている人はときどき油(将棋の駒を磨くには椿油がよく使われる)を塗って手入れすることが多い。ちょうどおろしたてのフライパンや鍋で野菜くずを炒めたりするのと同じだ。

大山康晴名人の詰め将棋の本に書いてあったことだが、自分の子どもが将棋を始めたらできるだけいい道具(駒とか盤とか)を与えなさい、そうすると自然と道具に愛着も湧くしそれが将棋を好きになり、上達する秘訣だ、という話があった。

たぶんこれは将棋にかぎらず他のものでも同じで、たとえばパソコンあまり使ったことない人に最初どれを買ったらいいか訊かれたとき、高いものを薦めてもあまり使いこなせないだろうし、どうせたくさん使うようになったらいいものを買うだろう、なんて考えて適当な安い機種を薦めると、結局あまり使わないまま粗大ゴミ状態、ということになりがちである。パソコンのことを好きになってほしければ、多少値が張ってもいいものを薦めた方がよい、というわけだ。形だけ真似ても仕方ない、と人は言うが、まず形から入るというのも重要な入り方なのだ。