理系志望の女子高校生活ガイド

昨日は午前の6時まで添削したりしていたので今日は昼から研究室 (でも今日ももう午前3時……)。

修論の実験設定の話をしたり(提出日前日にしてまだ結果が出ていないとつらいところ)、タイトルの話をしたり、用語の話をしたりなどなど。

今日1日で修論4人分(全員1回目)に赤入れ。これまで2人分見たので、これで6/10人分見たが、やっぱり一度外部発表している人はすごくしっかり書けている。自分も修士の時の研究は当時D2-D3だった ryu-i さんに多大なお世話になったが、乾先生のグループは2年間みっちり自然言語処理の研究のお作法を叩き込まれるので、指導の質が高い、ということなのだと思う。学部生(高校生)で自然言語処理分野に興味がある人は東北大学乾研究室も検討されるとよいと思った。

そういえば高校生で思い出したが、先日ブルーバックスの「理系志望のための高校生活ガイド」を読んだ。

理科系の大学・大学院ってどういう感じか、というのを解説するだけでなく(理科系の大学・大学院生活を経験した人なら「うんうん、こんな感じ」とみんな頷いてくれるだろう)、こういう参考書をこう使うとよい、こういうタイプの人は予備校はこう活用せよ、みたいな実践的な話も書かれていて、これは高校生時代に読んでいたら参考になっただろうなぁ。

びっくりしたのはあとがきで「奈良先端大の関研究室に感謝します」と書いてあったことだが、どうやら著者のページによると、NAIST の卒業生だったようだ。おもしろい人もいるものだな〜。

高校生でなくても楽しめるので、もし手に取る機会があったら読んでみるとよいと思う。あるいは身近に中学生・高校生くらいの知り合い(子ども)がいたら、ブルーバックスですぐ読めるので、興味を持ってもらえるかどうかはさておき、プレゼントしてもいいと思う。

あと先日紹介した「素敵にサイエンス 研究者編―かがやき続ける女性キャリアを目指して 女性のための理系進路選択」の姉妹編の「素敵にサイエンス 企業編―かがやき続ける女性キャリアを目指して 女性のための理系進路選択」

と「素敵にサイエンス 先生編―かがやき続ける女性キャリアを目指して」NAIST男女共同参画室に買ってもらって読んでみたのだが、「先生編」は正直なところいまいちだな〜。自分が大人数を前に教壇で講義をするような(高校・中学の)教員ではなく、研究室で一緒に実験したり書いた論文を添削したりする(大学院大学の)教員なので、あまりシンパシーを感じない、という点は割り引く必要があると思うが、それにしてもあまりワクワク感が伝わってこない。

とはいえ、「数学の授業で2次曲線について教えるのに、ハンガーを切って放物線の形にし、食パンの袋を留める針金を巻いて移動する点を視覚化することを先輩教員から教えてもらって目から鱗が落ちた」というような話は、自分も目から鱗。こういう個々の授業の工夫の集積が授業を滞りなく回すためのコツなんだろうか。教員の役割というのは授業をこなすことではなく、彼ら・彼女らの人生をもっと楽しくすることを手伝ってあげることだろうが、授業が多いとこういう小さいカイゼンも大事なんだと思った。(と、今年の12月に教員になって初めての授業を控えた自分は思うのである)

逆に「企業編」のほうはどの人のインタビューも刺激的。これ女性あまり関係ないのだが、企業の研究所にどういう経緯で入ってきて、どういう仕事をしていて、どういう環境か、ってことを語ってくれている。物理系だろうが工学系だろうがバイオ系だろうが、「役に立ってナンボ」というのが大学教員と大きく違うところだが、世界にインパクトを与えることができる、というのがとてもやりがいある、という意見はみなさん一致している。もちろん女性ならではの苦労話もいろいろと書かれているのだが、「こういう話は将来笑い話になるといいと思う」と、みなさん明るい。世界をいい方向に変えていく、というのはこういう楽観主義が必要だと思っている。

「(中学高校の)先生編」「企業(の研究者)編」「(大学の)研究者編」という3冊の本だが、もし自分がいま「将来こういう進路に行きたい」と思っているのがあったら、それと違う進路の2冊を読むとよいと思う。

自分は大学院に進学した直後、中学高校の教員になろうと思っていて教職課程も履修したりしたのだが、「企業の研究所に就職することは自分の人生ではたぶんないだろうから、逆に行ってみよう」と思って行った NTT 研究所のインターンシップで、研究できるのは大学だけじゃないんだ、自由なところは企業にもあるんだ、ということが分かって、結局博士の時も NTT 研究所に就職活動をすることにした。

また、「海外の研究所で働くことは自分の人生ではたぶんないだろうから、逆に行ってみよう」と思って行った Microsoft Research のインターンシップで、日本の大学の研究なんて井の中の蛙で、一企業の研究所でも Microsoft Research は日本の国立大学が10本くらい束にならないと足下にも及ばないんじゃないか、ということが分かったので、最初は Microsoft Research か Yahoo! Labs でポスドクしようかと思って博士の時に就職活動した (がちょうどリーマンショック直後でアメリカで働くのは厳しくて断念)。

あと、「海外の企業でエンジニアとして働くことは自分の人生ではたぶんないだろうから、逆に行ってみよう」と思って行った Appleインターンシップで、世界中で使われているプロダクトの開発をするということ、世界一の水準を目指すということの視線はどれくらい高いか、ということが分かったので、最初は NAIST に残って隠遁生活しようかと思っていたのだが、結局 NAIST に残りつつ開発に関わり続けることにした。

というわけで、自分が「この仕事・会社・大学って、こうじゃない?」と思うことなんて、中に入ってみないと分からないし、「これは自分には向いていないだろう」と思ったことも実はやってみると意外におもしろかったりするものなので、機会があれば積極的に挑戦してみるとよいと思う。ちょうど海外はインターンシップの応募シーズンなので、ぜひチャレンジしてみよう!

ちなみに昨日 Mixi に書いたことだが、インターンシップに行く時期としては論文(修論D論・卒業要件のための国際会議・論文誌などなど) を書かなくてはいけないシーズンから離れていれば離れているほどよい。自分はM1, D1, D3 でサマーインターンに行き、D2でもインターン的なものに行った経験からすると、

D1 > (博士に進学する) M1 > (博士に進学する) M2 >> (超えられない壁) >> D2 > (博士に進学しない) M1 >> (超えられない壁) >> D3 > (博士に進学しない) M2

の順かなぁと思っている。要約すると、現在M2で今年の4月からD1に進学する予定の人は、間違いなくいまが(特に海外)インターンシップに応募するベストのチャンスだ、ということである。@tetsuyasakai さんが Microsoft Research Asia (MSRA)でインターンを募集されているので、情報系の人はチャンス! そうそう、東大の辻井先生もこの春 MSRA (つまり中国)に転職されるそうで。自然言語処理分野の院生の人はインターンに行かない手はないと思う :-)