若手研究者に求められる「独創性」とは

@shichiseki さんが奈良に来ているというので砂原研に遊びに行く。@naomi_te さんや@yoppy3 さんらといろいろ話す。「独創性」とはなんぞや、という話をしてみたり……。

今年度の前半に書いた2本の申請書に対する評価を考えてみて、先日紹介した「科研費獲得の方法とコツ」を読み返しつつ先月4本研究費の申請書を書き、気がついたことがあった。特に「独創性」が弱いと指摘されていたので、この本の「独創性」に関するところを何回も読んだ。曰く、

独創性とは何か
「独創的な点」を示せとあるので,この項目の最後に「本研究はきわめて独創的であると言える」と書く人が意外に多いのだが,「独創的」という言葉があまりに陳腐になるので避けた方がよいと思う.[中略] 若手研究者に多くあるのは,図3-11のような文章(引用者注: 実際に申請して落ちた研究費申請書の例が図に書かれている)だ.このようにストレートに(!)「独創性」と書くのは,若い研究者に多い.まだ十分な実績がないことはわかっているのだから,背伸びせずに,自分の研究の何が新しいことなのかをしっかりと書いておこう.(pp.74-75)

ということで、「自分から独創的と書いたりしないこと」というのはなるほどな、と思った。確かに「こう書かないこと」という例のように書いていたので、点数が低くても納得……。

さらに東大の科研費申請に関するガイドでも紹介されているが、武部啓「科研費申請の正攻法とコツ」,「実験医学」(羊土社) (1998年8-12月号)というのに「自分しか行なっていない研究」は独創性を示すことにはならない、という話が書いてあるそうで、これも目から鱗。独創性というのは誰も思いつかないような斬新なアイデア を生み出すことかと思っていたのだが、どうやら違うらしい。孫引きすると、

①世界あるいは日本国内で,第1人者あるいはそれに並ぶ高い評価を受けている研究であること.[中略]
②自分が樹立した系統(株),あるいは自分が見つけた疾患(患者)などを有し,それを多くの人が使ったり,引用したりされている場合.
③自分が開発した研究技術,解析手法などを駆使する研究.
④多くの研究者が注目している分野で,自分の研究の位置づけと意義を明確に示すことができ,しかも具体的な研究計画が示されている場合.
⑤全く新しい技術,方法を強い説得力で提案する研究.

であり、自分がこれまで「独創的」であると思っていたのは⑤だけであって、他の項目は全然意識していなかったので、書きもしなかった。しかし、研究費の申請書に点数をつける側からすると、①から③までのような「申請者がこれまでに独創的な研究を行なってきた」というのが重要であり、それを積極的にアピールするのが「当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義」で書くべき内容である、というのだ。

言われてみれば「なるほどそうか」と思うのだが、つまりこれは研究を「回す」というのはまず研究費を獲得し、獲得した研究費で研究を進め、業績を挙げ、挙げた業績で次の研究費を獲得する、というサイクルであり、「画期的なアイデアがあるからお金ください」というものではない、ということである (もちろん、そういうタイプの研究もあるのだろうが、それが大多数ではないのだ、と)。

そう考えてみると、確かに今年5月に書いた自分の研究計画書はこういうところをアピールしたものではなかったし、面接で「あなたの得意技はなんですか」と聞かれたのも合点が行く。言い換えると、「あなたが世界一、あるいは譲歩して日本一と言える得意分野はありますか」「みんなが真似するような手法・モデルを提案したことがありますか」「多くの人が使うようなあなたが作成したデータ・コーパスはありますか」ということを聞いていた、ということであり、そういうのがない人は(独創的な)研究者ではない、ということであろう。

先月の中旬くらいからこういうことに気がついて、独創的な研究をする、独創的な研究者になる、というのは並大抵のことではないぞ、と冷や汗が出たものであるが、逆に奇抜なアイデアがこんこんと湧き出るようなタイプではない自分にとっては、地道に一つのことを続けていてみんなが使ってくれる(引用してくれる)コーパスなり手法なりモデルなりを一つでも提案できたらよい、という観点からは、「これなら自分でも研究の世界で勝負できるかも」と思ったりもする。

単にトップカンファレンスに論文を通すのは、「単に」と言うほど簡単なことではないのは当然だが、それだけで優れた研究をしているということになるわけではなく、通したあとその仕事がどれくらい他の人に省みられているか、というのも意識しないといけないわけで、その2つの間には相当ギャップがあるように思う。こういう研究を進めるのに、かかるお金というよりは、ものすごく時間、手間暇がかかるのだなぁ、と嘆息。

そうこうしていると、@msraurjp さんのつぶやきで知ったのだが、今年は学振 PD の内定ゼロらしい。これはひどい。ここ数年博士後期課程の学生向けの支援を増やしつつ、博士号取得したあと研究を続けようという研究員に対する支援を減らしていた(これは民主党に政権が交替する前からの傾向)のだが、ここまで来るとは……

(2010-11-04 追記) リンク先(のリンク先)を読んでいただけると分かるが、「現時点での内定ゼロ」という意味で、今年の採用ゼロが確定した、というわけではないことに注意。12月に内定が出るらしい。ただ、この時点で確定しないということは、学振 PD 以外の選択肢も残しておかないといけない(民間企業への就職活動とか)わけで、それは大変なんではないの、ということ。来年4月以降の職の保証がない状態で研究(+就職活動)しないといけないって……。

情報系はまだ企業に受け入れる体力(需要)があるだけましで、人文系のようにこの研究員制度がないと研究を続けられない人たちもいるわけで (そもそも世の中で需要のないような研究を支援する必要があるのか、という見地から減らしているのかもしれないが)、いくら高等教育の過渡期と言えど、これはあんまりではないか……。時間かけないと研究者は育たないのに、一度これでアカデミアから人が離れてしまうと、日本の研究に取り返しのつかない傷跡を残してしまわないかといささか心配である。

科研費獲得の方法とコツ

科研費獲得の方法とコツ