攻めのキャリアプラン

各所でときどき見かけていた

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

を読んでみた。一言で言うと、読んでよかったが、値段(2800円)の割には内容が薄いように思う。内容的には冗長な部分も多いので(自分の日記もぐだぐだ書いているので人のことは言えないが)、うーん、と思うが、この本でなるほどなと思ったことも両手で数えるくらいはあるので、読んでみる価値はあると思う。

全体的に、いろんな書籍からの抜き書きや、どこかのブログからのコメントを切り貼りした形式で書かれていて、玉石混淆でもあるが……。ブログを論拠にするのはブログだけでいい、と思うのは自分が古い人間だからだろうか。こうやってブログが元になった本だと、ブログが原典になっているものも増えているのだろうけど。いずれにせよ、それはなにが根拠なのかそれぞれ書かれているので(これはやはり著者が研究者だからだろうが)、信じる信じないは自分で決めればよいし、役に立ったコメントも2割くらいはある(これは高い割合である)ので、良心的ではある。巻末に読書ガイド(書評つき)がついているので、とても親切である。

推薦状に関して昨日書いたので取り上げてみると、p.36 には推薦状を書いてもらってから書いてもらった人に同意を得て中を見ることで、自分の強みを知る、という方法。前紹介したハーバードビジネススクールでも「誰か自分をよく知る数人に自分の推薦状を書いてもらい、それを読んで自己分析すること」という課題が出るそうで、自分がなにをしたいかではなく、自分がなにが得意かというのを他人から教えてもらうのは、リーダーシップを発揮するための近道なのであろう。

この本でも何回か書かれていて、自分でも実践しているのは、自分が迷ったり不安だったりしたら、その状況を文章やイラストにしてみることである。これは紙に書かなければならない。キーボードではだめなのである。自分は毎年の手帳のフリースペース(巻末に60ページくらいついている)を使うことにしている。それぞれの選択肢とその利点・欠点を列挙し、どれを選択したらその後どうなるか、というのをチャート(ガントチャートにすることが多い)かグラフにするのである。

自分はかれこれ小学6年生のときからこれを続けているのだが、書くと大体落ち着いて、自分のやりたいことが(なぜか)できるようになる。ここ10年くらいは、年1回は最低これを書くようにしている(裏を返すと年1回はどこかに行く決断をしているからだが)。横軸がどれくらいの幅あるかによって違うのだが、大体5年程度のスパンで書いているが、ときどき30年分書くこともある(そのときは時間軸は縦軸にする)。要は、実際将来どうなるかは分からないし、計画通りに行くかどうかはどうでもいいので、自分は将来なにをしていたいのかということをまとめるのと、現在の自分から見て自分は将来どうなっていそうかという予測を立て、ありうる将来に備えることである。(あと、散逸してしまわないように、毎年書いたものがどこにあるか確実なものがいい。自分は手帳を使っているが、キーボードでいい人は、毎年どういうふうに書くかをしっかり決め、ファイルの場所が分からなくなって数年前なにを書いたのか分からなくならないようにするべきである)

象徴的なエピソードがpp.54-55に書いてあって(これは孫引きなのであるが)

 ハーバードビジネススクール(Harvard Business School, HBS)で実際にあった話ですが、1979年度のHBSの学生のうち:

  • 3%は将来の目標を紙に書いていた
  • 13%は将来の目標を持っていたが、紙には書いていなかった
  • 84%ははっきりとした目標を持っていなかった

 さて10年後の彼ら/彼女らの収入を見てみると、将来の目標を持っていたが、紙には書いていなかった13%の人は、はっきりとした目標を持っていなかった84%の人の平均2倍の収入がありました。そして将来の目標を紙に書いていた3%の人は、残り97%の人のなんと平均10倍の収入があったのでした。

ということで、評価尺度が収入なのがなんとも言えないが(ビジネススクールの場合収入の違いはきっと log スケールで計らないといけないだろう!)、ちゃんと目標を紙に書く人とそうでない人はかなり違う、というのはときどき感じる。最近はブログでその年の所信表明をする(抱負を書く)人が多いのは喜ばしいことである。抱負を書くのを「みんな書いている」と馬鹿にする人もいるのだが、馬鹿にすることないのに、と思うのである。(たぶん10年後に馬鹿にした人と馬鹿にしないで書いていた人の差が出るのだろう。そもそもブログもなにも書かない人より書いている人のほうが成長しやすいと思うし、自分がなにをしたいとコンスタントに書く人のほうが、数ヶ月に1回思い出したように更新する人より自分の計画通りに行くように思う)

自分のやりたいこともプランA、プランB、プランCくらいまであるのだが、今日はプランAについて書いてみようと思う。たぶん、毎年やりたいことは1月1日に書くのだが、数年以上のスパンでなにがしたいのかは書いたことがない(妻や上司や先輩・友人にオフラインで話すことはある)。まあ、毎年の抱負ですら思ったように行かない(挑戦して失敗することもあれば、そもそも途中で気が変わってやりたくなくなることもある)ので、それより長い計画が計画通り行くとは思っていないが、ご愛嬌で。

  • (今年31歳から) 40歳まで
    • 研究と開発(エンジニアリング)を両立させる。現在の学生たちに、一つのキャリアパス(こういう道もあるんだ)を示す。研究成果を開発に応用したい。博士時代と違う研究分野を開拓する。業績にこだわらない。失敗したら、誰か拾ってください(笑)
    • 短くて1年から長くて5-6年程度、海外(=シリコンバレー、その他)で生活する。子どもを2-3人産んで育てる。遅くとも8時には家に帰り、家族との時間を大事にする。(できるだけ)土日は仕事をしない。(なるたけ)家に仕事を持ち帰らない。
  • 40歳から50歳まで
    • 研究と教育を両立する。自分の研究室を持ち、(研究的に、そしてエンジニア的に)世界で通用する人材を育てる。金にあくせくしない。失敗したら、誰か研究分担者に入れてください(汗)
    • 子どもが中学に入る前に腰を落ち着け、引っ越しはそれ以降控える。子どもと共通の趣味を持つ。できれば日本、地方の中核都市もしくは東京・大阪であれば周辺部(千葉・神奈川とか奈良・兵庫とか)で過ごしたい。日本のいいところをいろいろ見せてあげたい。
  • 50歳から60歳まで
    • 研究で「自分はこの分野でこういう貢献をした」と言えるような仕事をもう一仕事する。学会もしくは大学(研究所)で研究分野の舵取りをする。日本の科学技術行政に関わる。世界に通用する分野もしくは大学を作る。名誉に媚びない。失敗したら、妻に養ってもらいます……
    • 子どもが全員大学に入ったら、家を追い出し、夫婦でまた新婚生活気分に戻る(?)。息子だったら、世界中好きに羽ばたいてくれ。娘だったら、結婚式に号泣したい(予定)。いずれにせよ、ときどき帰省したくなるような家を用意して待っていてあげたい。
  • 60歳から70歳まで
    • 60歳までの研究関係で頼まれたらなにかやるかもしれないが、科学史科学哲学に戻り(学部まで科学史科学哲学専攻)、博士号(PhD)取得。日本の研究者がどのように行動するのかの生態系を研究する。これが死ぬまでのライフワークになる予定。失敗したら、きっと他の仕事を引き受けていることでしょう。
    • 夫婦で好きなところに住む。嫌がられない程度に孫の世話をする。

これらは自分が常勤・妻が非常勤プランで、妻が常勤・自分が非常勤プランもあったりするのだが、人生なにがあるか分からないし、途中で交通事故に遭うかもしれないし、臨機応変に対処していきたい。(あ、あと子どもが小学生とか中学生のうちに留学生のホストファミリーもしてみたいのだが、共働きだと難しそうだ。)