アメリカと日本の研究者の賃金格差

My Life in MIT Sloan より 技術者が金儲けして何が悪い?−頭脳流出のススメポスドクはアメリカでも報われない?を読む。

まず「頭脳流出のススメ」から。流出したほうがいいんじゃない、とのことで、1番目に上げられている理由だが、アメリカのエンジニアは日本より遙かに待遇がよい(そんなたくさん働かなくてもいいし、お金もたくさんもらえるし)というのは知らない人は知っていてもよい知識だと思うが、だからといって無邪気に「日本を捨てて海外に行きなさいよ」と言うのもなんだかなぁ、と自分は思う。

日本は給料安いかもしれないが、住むには非常にいいところだと思うし、給料のよさだけで働く国(場所)を決めるのは、給料いいからと東京で働くようなものであり、総合的には人生損しているんじゃないかな。もちろん東京みたいなところが好きな人もいるだろうし、そういう人がもしかしたら多数派なのかもしれないが、地方の生活が嫌で東京に出る人のように日本の生活が嫌で海外に出る人でもなければ、日本の生活は(日本人であるということを割り引いても)かなり居心地いいんじゃないかと思う。

2番目に挙げられている理由についても、日本でやっている技術はつぶしがきかないから海外(といっても海外=アメリカ?)へ、というのも、むしろ自分としては Linux とかネットワークみたいな「つぶしがきく」分野はそれこそインド人や中国人と争わないといけない分野であり、組み込みみたいな「つぶしがきかない」分野のほうがエンジニアとしての価値を遙かに高めると思うのだけど……(例は全部上記のブログからの引用です) たとえば最近どこ行ってもひっぱりだこなモバイル系のエンジニアって組み込みみたいな仕事じゃないんだろうか?(ハードウェアよく知らないので分かりませんが) 

最後の理由、「日本企業が、今後国際的に競争力を持つためには、一時的に痛みを覚えてでも、『優秀な技術者は優遇しないと来てくれない』ということを思い知る必要がある」というのは全くもって同意。日本の大企業は横並び意識が強い(もしかしたら人事だけかもしれないが)ので、人によって(経験年数、つまり年功序列以外で)待遇に差をつけるということができないようで、「仕事の内容はおもしろそう・楽しく働けそうなのだが、この扱われ方は……」みたいに思うことがあった。(以下愚痴なので中略)

前も取り上げたことがある海外で勉強して働こう(これ、海外=アメリカと思っちゃう人いるようだが、しっかり読むとそうじゃない)も、ちゃんと読むといろいろいいことが書いてある。

「海外で成功経験を積む」人が増えることは、日本のためにもなる。シリコンバレーにはインド人や中国人がやたらといる訳だが、インドや中国から見るとbrain drain(頭脳流出)が起こっている訳ではなく、brain circulation(頭脳還流)が起こっている、というのはUC BerkeleyのAnnaLee Saxenian教授の研究結果な訳ですが、飛行機でどこにでもさくっと行ける今日この頃では、「二つの国を行ったり来たりしながら働く人」というのも沢山いる。

自分的にもこのほうがしっくり来るし、自分のオススメは行ったり来たりかな? 日本国内でもずっと東大・京大にいたりするんじゃなくて大学院で場所変わって行ったり来たりとか(アメリカでは大学院で大学変わるのは普通らしいが)、その逆とか、インターンシップを利用してあちこち行ったりとか。行かれる側(自分が行くのは抵抗があって「ずっと一つの場所にいたほうが研究が捗る」とか理論武装する人とか)からすると「流出」に見えてしまうのかもしれないが、交通機関(新幹線、飛行機)も連絡手段(メール、ブログ、TwitterFacebook)も発達した昨今、物理的な場所を移動しても連絡を取り合えるし、結局「還流」になるんじゃないかなーと思うのだ。

次にポスドクのお給料についてのポスト。ポスドク(博士号取得後に着く研究員。1-5年程度の契約社員だと思ってもらえればいい。一般的に日本でもアメリカでもこういった契約社員の数年経てから大学や研究所での常勤のポストが得られる)はアメリカでもエンジニアと違い冷遇されている、という話なのだが、自分からすると驚きはそこじゃなくて、アメリカだとアカデミアに行けばかなりお給料がもらえるというところ。

もちろん大学のポストを得るのは難しいだろうが、日本で大学教員になってもらえるお給料からすると、これはけっこうもらえているような……? 企業でポスドクをする場合と企業でエンジニアをする場合のお給料の違いは1.2倍だが、大学でポスドクをする場合と大学で教員をする場合のお給料の違いは2.3倍! これはいくらなんでも搾取されすぎ……。ここまで「勝ち組」と「負け組」がはっきりするのはちょっとどうかと思う(そういう意味では研究員とエンジニアで待遇が違いすぎる企業も自分は居心地悪い)。日本は平等主義の弊害もあるが、こんなあからさまではないし、大学で研究するなら日本にいたほうがなにかと精神衛生上いいのではないか(アメリカに行くならエンジニアもしくは企業の研究員のほうがいい)と思った。